結膜アプローチによる
下眼瞼形成手術(下眼瞼脱脂)の学問的背景

下眼瞼膨らみ(baggy eyelid)を改善する手術として、結膜アプローチにて眼窩脂肪を切除する方法は、文献によると既に1920年代より行われていたようです。1975年に Tomlinson が報告した文献には、この方法は、1923年 Bourquet によって既に行なわれていたこと、Tomlinson 自身は1955年 Tessier からこの手術を教わったことを記載しています。Tessier は、形成外科頭蓋顎顔面外科を専攻する医師であれば誰もが知る顔面骨手術のパイオニアで、眼窩周囲手術のアプローチの一方法として経結膜アプローチも開発されました。従って、この方法は最近開発された目新しい手術方法ではなく、1920年代より行われてきた歴史ある手術といえます。
 一方、炭酸ガスレーザーを用いて本手術を行う方法は、1984年 Baker によって報告され、以降同様の報告が散見されます。欧米では炭酸ガスレーザーによるlaser resurfacing(皮膚若返り術)が広く行われましたが、この際、同じ炭酸ガスレーザーを用い皮膚を切開しない下眼瞼脱脂を同時に行う治療がよく行われたようです。

 本邦には、1990年頃より、炭酸ガスレーザーによるlaser resurfacing(皮膚若返り術)の紹介とともに、炭酸ガスレーザーを用いた下眼瞼脱脂が紹介されました。これまでもメスや電気メスを用いた経結膜アプローチによる下眼瞼脱脂は行われていましたが、手技が難しいことや術中出血のコントロールが難しいことからあまり一般的ではなかったようです。しかしながら、炭酸ガスレーザーを用いることで、殆ど出血がなく、より短時間で施術できるようになりました。
 一方、この手術は、合併症がほとんどないことも利点の一つです。100例以上の手術を経験した医師であれば、殆ど合併症がないことが、1996年 Trelles によって報告されています。
 その後も本邦では結膜アプローチによる下眼瞼形成術(脂肪切除)は、皮膚瘢痕を避けたい若年者にわずかに行われるのみで、一般的には経皮アプローチによるものが標準術式として行われていたようです。下眼瞼膨らみ(baggy eyelid)を改善するには、余った皮膚の切除が必須との思い込みが根強いと想像されます。

 しかしながら、最近では、レーザー治療やケミカルピーリング、ラジオ波などによる皮膚引き締め治療(skin tightening)法が広く普及したため、皮膚を切除しなくとも皮膚たるみの改善が期待できるようになったため、皮膚を切除せず、結膜アプローチによる脱脂のみを行う方法も認知されつつあります。
この方法は、単純に脂肪を減量する、脂肪切除法 (fat removal) を基本として、脂肪移動法 (sliding pad technique)、眼瞼嚢筋膜縫合法 (Capsulopalpebral suture, de la Plaza technique) 、隔膜縫合法(Septal suture repair))など様々に工夫された術式が報告されています。脂肪切除法は単純に眼窩脂肪を切除して下眼瞼形態を修正する方法ですが、鼻側・中央・外側の脂肪塊から適切に脂肪を減量する方法でるが、この手技が全ての手技の基本となります。最近では、皮膚アプローチによる脂肪移動法(Hamra法)を結膜アプローチで行う方法も注目されています。一方、眼瞼嚢筋膜縫合法と隔膜縫合法は、眼窩脂肪を保持している膜を補強することで突出した fat pad を還納する方法です。

参考文献


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